Vanilla
漸く脳が覚醒して状況が掴めてきた。
どうやら私は眠っていて愛佳ちゃんに起こされたようだ。
腕時計を見ると八時半を差していた。

私は焦ってオフィスを見渡す。

朝永さんは……まだ来ていない、かな……。

有名企業のオフィス。
入り口の扉から奥の窓までは五十メートルはありそうな広さ。
私のデスクから朝永さんのデスクまでは十メートル程離れている。
でもそのデスクにも、見渡せる視界の中にも朝永さんの姿は捉えられ無かった。

ホッとしたような、不安になったような……。

だって朝永さんがもしかしたら上司に私の事を告げ口するかもしれない。
私は首の皮一枚ギリギリ繋がっている状態だから。


「……あ、あのさ、朝永さんって、どんな人か知ってる?」

私は思いきって愛佳ちゃんに探りを入れる。

「あ、あのつぐみから、男の名前が出るとはっ!」

大袈裟なくらいの目を見開いて、両手を頬に添えたオーバーリアクションの愛佳ちゃん。

「……私だって男の名前くらいだすよ」

私は不服だと唇を尖らせる。

「ん?ゴニョゴニョ何を言ったの?」

私の呟きは聞こえなかったらしい。

だって私には恋人を作る心の余裕なんて無かったもん。
まぁ今はそれはおいておこう。
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