Vanilla
頬が涙で濡れていたけれど、気にもせずにがむしゃらに下へと階段を駆け降りた。

出来るだけ二人から遠ざかりたかったから。

朝永さんと穂香さんは付き合っていた。
別れたけれど、まだ続いている。
穂香さんに伊藤さんという婚約者がいるのにも関わらず。
朝永さんの誕生日に会う程だ。
それにあの日、朝永さんは帰って来なかった。

考えながら朝永さんに一番最初に湧いた疑念を思い出した。

朝永さんが私に近付いたのは、何故だろうって。

朝永さんと私はあの日まで会話すらしたことが無かった。

もしかして、私が穂香さんと仲が良いことにも関係ある……?

心の中で問い掛けながら、納得してしまった。

朝永さんが甘い顔を初めて見せた時、穂香さんが近くに居た。
あれは穂香さんに対してのアクションだったのだろう。
だってあんな朝永さんを会社以外で見たこと無いもの。

不器用な朝永さんらしい。
素直に穂香さんには言えなかったのだろう。
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