Vanilla
エレベーターが一階に着くと朝永さんはフロアが真っ暗なことなんて気にもせずにスタスタと歩きだした。

朝永さんは背が高くて、スタイルはモデル並みで脚も長いから、歩くスピードがとてつもなく速い。

身長一五〇センチの私の歩幅なんて考えなし。


朝永さんはそのまま会社を出た。
私はその後ろをひたすら駆け足。

パジャマ姿な私を何処に連れて行くのだろう……でも逆らったらクビだ……、なんて考えながら必死についていくと、朝永さんが突然ピタッと止まって。

ぶつかりそうになったが、何とか寸前で止まれた。


どうしたんだろう……道路の手前で止まって……。

次の挙動を窺うが、朝永さんの動かない背中しか見えない。

朝永さんは無言。

私は怖すぎて自然と無言。

辺りは二十三時ということもあり、照明は街灯しか無いし、目の前は二車線の道路だけれど車は一台も通らない。

昼は賑わっている道路も、夜のせいで静かすぎる。


ち、沈黙が、辛い……。
< 9 / 566 >

この作品をシェア

pagetop