秘/恋



「初めて、入った」


職員室と同じ並びの、教科講義室よりも小さめの部屋。

『生徒会室』という、平凡な女子学生はひるみがちなプレートを見上げて、あたしはつぶやく。


「汚くてごめんなさい」


さらりと云う彼女は、さすが部屋の主。

積み上げられたプリントの狭間に置かれたティーセットで、手ずから紅茶を入れてくれた。

大人びた彼女に、白いティーカップがよく似合っている。

あたしはといえば、身体が強張って差し出されたカップにさえふれられない。

こんなときだけ、内弁慶が炸裂。

情けなすぎる。


そもそも、彼女はなにを考えて、あたしを呼び止めたんだろう。

想像しようにも、あたしが彼女について知っていることは、決して多くない。

明良と同じ、生徒会の執行部メンバーだということ。

同じ二年だということ。

それと――明良と、一年の春から付き合っていること。

よく考えれば、名前さえ知らない。


明良は、教えてくれなかった。



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