秘/恋
すすけたベニヤが立て掛けられた店先。
ゆらゆら、夏の名残の浮き輪が吊られている。
駅前の雑貨屋さんで聞いた道を、無言でふたり、歩いている。
つないだ手の、指をからめて。
視線はお互い、別々に。
夏が終わってうら寂しさばかりが積もる路地でも、歩けば歩くだけ、海の気配が近づいてくる。
まるで、予感みたいに。
「海の匂いがする」
「云ったろ? 連れていくって」
「……うん」
少しだけ、つないだ手を揺らして、うなずく。
かすかな高揚。
気兼ねなく明良と一緒にいられる嬉しさ。
それと――細い細い針みたいな、かすかな違和感。
それらはぐちゃぐちゃになって、あたしを半端に不安がらせていた。
同時に。
不安だけど、そのぐらぐら感に少しだけ――あたしは、どきどきしてた。