秘/恋



「……なぎに、代わりに怒られておいて」

「へ? 明姫?」


樹也のまぬけな声を無視して、素早くぱっと、指をほどいた。


あたしは、一歩、踏み出す。


明良は真っ黒な瞳、潤んで白目にくっきり浮き上がる綺麗な瞳で、あたしを見つめている。

手を伸ばしても届かない。

だから、もう一歩。


「明姫、好きだ」


明良の声は揺れて、どこか不安そう。

【好き】って言葉に魔法が宿っているみたいに、すがるように響かせる。

もう、一歩。

指先がふれたら我慢ができなくて、明良のブレザーを引きむしるように抱き寄せて。


――むさぼるみたいに、キスをした。



< 172 / 219 >

この作品をシェア

pagetop