秘/恋



「やるせな~いカオしてる」


くすくす、最高に愉しそうに、貴子が笑っている。

調子を合わせ、無理矢理俺も笑みをひねり出す。


「やるせな~い気分なんだよ、俺は」

「可哀想ね。慰めようか?」

「慰める優しいカノジョの役、おまえがしたいなら、やらせてやってもいい」

「なるほど。乗った」


貴子が腰を屈めて、軽いキスをくれる。

ちくん、と針を刺されたような違和感。

でも、貴子に関して云えば、それも馴れた。

お互いに、お互いのこころを探るように、視線を重ねる。

瞳の奥に、決定的な不快感がないことを確かめて、今度は深くキスをし直した。

くちゅ、と濡れた音が、誰もいない部屋に響く。

絡めた舌の熱さと、他人の肌の生々しさを飲み込む。

柔らかく落ちてくる貴子の身体。

抱き止めたところで、聞きおぼえのある声が、俺たちの間に割り込んだ。


「色っぽいトコロ、お邪魔さん。でもちょっと、カレシの方、借りたいんだけど」


続けて、こんこん、とわざとらしい、ノックの音。

派手な金髪アタマ。

開け放たれたドアをもう一度、指先で弾いて、俺のいちばん嫌いなヤツがいた。



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