秘/恋



「なんで、俺を見ないんだよ」


不満・不機嫌・不愉快。

アンチな気持ちたっぷりに
ヤツは唸る。


「なんで……?」


あたしにとっては、
そのセリフこそ『なんで?』、だ。

条件反射で、
昨夜のことが脳裏をよぎる。
もどかしくて、
苛立たしくて、

……しあわせで。

しあわせだと感じるあたしと
そんな所業に及んだこいつを
まとめて串刺しにしてやりたい記憶。


「なにが『なんで?』よ。
あんた、あたしに昨日、
なにしたか忘れたワケ?」


喚くあたしに、
逆にこいつは、
余裕を取り戻したみたいだ。

にっと笑いながら
あろうことか
あたしの顔に
顔を近付けてくる。


堪忍袋の緒が、切れた。


「いい加減にしろ、この、バカ!」


あたしは遠慮なしに、ヤツの腹を蹴る。

おもしろいくらい簡単に
油断していたヤツは吹っ飛んだ。



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