秘/恋


狭い我が家の廊下にへばったヤツを
腕組みをして、見下ろす。

いや、見下す。


「あたしの、半径50メートル以内に、近寄らないで。
でないと、殺すわよ」


云い捨てて、踵を返す。

早めないように。

絶対に、逃げたなんて思われないように。


「明姫」


進めた足は、
ヤツの声ひとつで簡単に止まる。


「好きだ。本気で」


ささやきひとつでたやすく
アタマに、血がのぼる。


「あたしは……違うからッ!」


『嫌い』と口にできなくて
勢いよく背を向ける。


あたしと
おなじ顔立ち
おなじ肌の質
おなじ髪の色をした

ヤツ――あたしの片割れ。


あたしの双子の兄・明良から逃げた。


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