秘/恋



「で、どうすんの?」


手のなかのいちごみるくを弾ませて
樹也が訊いてくる。


「どうするって?」

「あんた、俺と付き合うの?」


ぐっと、息が詰まった。


「……あんなの、なぎの戯言」

「でも、なぎが云うんなら
俺は、あんたと付き合っても
かまわない」


結構まじめな顔をして
樹也が云うから。

あたしは、
ついつい真剣に、
彼を見つめ返してしまった。


「それって、そゆこと、よね?」

「そういうコト」


あっさりと、樹也はうなずく。

あたしは、
猛烈に彼が気の毒になった。

彼は、なぎが好き。

その好きなひとから彼は
『あたしと付き合え』
と命令されたのだ。

これが気の毒じゃなくて
なんと云う。

しかも、
以前聞いたところによると
なぎは時代錯誤にも、
年上の婚約者がいる、らしい。


――不毛。


「だから、なぎの云うことなら
俺はなんでも聞くよ」



いちごみるくでも

カフェラテでも

……恋人でも。



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