once again
「あ、悪い。もしもし、あぁ、俺だ。今度の事か?取引きどうなってるんだ?明日?…」

兄の仕事の話を聞く訳にもいかず、意識を外に向けていた。

トントン

テーブルを叩く音がした。
兄の方を見ると、何か書き物をとジェスチャーされて、慌てて紙とペンを渡した。
兄はメモに何かを書き出した。
見ろ、と電話で話しながら私に合図する。

そこには

『今から、家に帰るから出かける用意をしろ。とりあえず、何日か帰るつもりで用意をしろ。分かったな?この電話が終わったら連れて帰るからな』

と、書かれてあった。
な、なんですって…

「兄さん!あ…」

あのね、と言おうとしたけど、電話をしてるから、と首を振られた。そして、さっき書いた紙をちらつかせた。

こうなってしまうと、兄の言う事は絶対だ。

仕方なく、出かける準備を始めた。

私の準備が終わる頃、兄の電話が終わった。

「悪いな、仕事の電話で。用意出来たか?」

「兄さんの強引は昔っからよね、諦めてるよ。父さん達に言われたんでしょ?連れて帰ってこい、って」

「まぁな。瑠璃の事も聞きたいらしい。お前は相手の事知ってるだろ?瑠璃も一緒で秘密主義だからな、あいつもなかなか帰ってこないんだぞ?」

「う、嘘!私には帰ってるって、言ってたのに」

兄はそれを聞いて、大声で笑った。

「ハハッ。あいつ、お前と一緒だからな、モデルやるんだ、って言って親の決めた結婚も蹴ったんだよ。それから帰ってきてないよ。もうすぐ1年じゃないかな」

「ええ!そんなに、って言うか、そんな事あったの?」

「まぁな。ま、話は車の中でしてやるよ。行こうか?」

「あ、うん。分かった」マンションを出ると、前に一台の車が停まっていた。兄は私からカバンを取ると行くぞ、と歩き出した。

その車の中から、兄の姿を確認すると、運転席から人が出てきた。

「あ、蓼科さん…」

「お久しぶりです。涼香お嬢様、お元気そうでよかった。さ、どうぞ、お乗りください」

言われるまま、私は車に乗り込んだ。

私が車に乗ろうとした、それを見ている人がいる事に気づいてなかった。


< 122 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop