恋・愛至上命令。
おおよそ時間通りにマンション前に到着すると。街灯で薄明るい闇の中、凪が歩道まで出て待っていた。連絡したのは井沢さんだろう。さすが卒がない。

『武史さんには、高津さんのことは一年前からのお友達だと言っておきますからね』

着く直前、にっこり微笑み返してくれたお母さんには心底感謝した。お父さんが関係を知ったら、喜んで話を進めるとも限らないんだから。


外からドアを開けてくれたスーツ姿の凪が、お母さんに向かって一礼する。

「お疲れ様です」

「今日は瀬里と楽しい食事ができたわ。今度は大島も同席なさい」

「はい。・・・ありがとうございます」

「じゃあ瀬里。お休みなさいね」

車を降りたわたしに艶やかな笑みが向いた。

「お休みなさい。井沢さんもありがとうございました」

運転席の彼にも声をかけると、「お休みなさいませ」と執事のような挨拶が返った。



走り去ってくテールランプを少しの間見送り、凪に促されて階段を上がった。
玄関先で、履いていた靴を脱ぎ。二人だけの空間に戻ったことを意識した瞬間。フィルターが一枚剥がれたみたいに、そこまで保ってた何かが崩れそうになるのが分かった。

足早に自分の部屋に入ってドアを閉める。そのままズルズルと力なく床に座り込んだ。
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