恋・愛至上命令。
「着替えもせずに何をやってたんです」

微かに目を眇め、訝るような響きで聴こえる。

「これからしようと思ってたの」

わざと素っ気なく言い、床に置いたままだったバッグとコートを拾い上げた。

「姐さんの話は何だったんです」

入り口に立ったまま凪はわたしの背中にそう訊ねた。

「お嬢の顔色くらい読めます」

淡々と問い詰められて目を伏せる。知ってる。凪は敏感だ。今までだって隠せた試しがないんだから。
コートをハンガーに掛けながら、声で気取られないよう普通に。・・・普通に。

「・・・前にわたしが断ったお見合いの話。どうしても向こうが会いたいらしくて、今度の日曜に会うことになったの」

「それだけですか」

思わず唇を噛んだ。やっぱり誤魔化されてくれないの。
クローゼットにコートとバッグを仕舞って扉を閉め。胸の内で息を逃してから振り返って、顔も見ずに一気に吐き出す。

「ッ・・・相手が晶さんだったってだけよ・・・っ」

「高津が・・・?」

低い呟きに、おずおずと凪に視線を戻した。
表情はいつにも増して機械みたいに温度が無く見える。

「・・・お母さんに晶さんのことは話したわ。お父さんには上手く云ってくれると思う。ちゃんと断るし、凪が心配するようなことは何も無いから」

笑って言える余裕はさすがに無かったけど。言いたいことは云えた。これで後は自分の気持ちをきちんと終わらせればいい。そう思った。
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