黒薔薇の命約



「サウンベル候か……」



ラディンは夜、自室のベッドで一人考えていた。



サウンベル侯爵はバカバカしい権力争いが繰り広げられる王宮内にあって、あまりそういうことに無頓着でありながら、前皇王の時代より、皇王の側近中の側近として腕を奮う、ラディンにとっては珍しくも好意が持てる貴族の一人だ。



何度か見たことはあるが、物静かで、常に泰然とした所作には威厳すら感じさせる。



サウンベル侯爵は外交に強く、七年前に起きた、王宮を震撼させた大事件の折りも、候がいなければリュンゲルム皇国は他国の侵略を許していただろうと言われている。




そして、サウンベル侯爵は、そういった政治的手腕とは別に、ある特殊な事情に長けていた。




ある特殊な事情――それは『海』についてだった。


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