黒薔薇の命約
ただ、大陸の中に一国のみ、「グリューンの民を狩ることはおかしい」と唱えた国があった。
大陸の中でも大国の一つに数えられたその国は、各国に抗議されつつもグリューンの民を擁護し続けた。
あらゆる迫害を受け続けたグリューンの民は、大部分が各国の奴隷となり、少しの民が、擁護した国にて市民権を得、ほんのわずかの民が未だに海で、海の上だけで暮らしているという。
奴隷となっても海を愛し、仲間を愛したグリューンの民は、『グリューンの智慧』を全て明かすことを良しとはしなかった。
今では、混血が進み、グリューンと呼ばれた民は昔話で語られるのみ。
それでもわずかなグリューンの名残は時々表れる。
混血が進もうと、どれだけ血が薄まっても、その民族の証であるかのような外見上の特徴が表れるのだ。
黒髪にオッドアイ。
時が経とうとも、その特徴は大陸全土に知れ渡って今日に至る。
――――『グリューン』と呼ばれる民はいなくなった。
神の叡智は失われた。
もう、三百年もたった昔の、話。