黒薔薇の命約
怒れる団長
―――冗談じゃない。
ラディン=イグナリオはリュンゲルム皇国王宮の回廊をカツカツと沓音を響かせながら早足で歩いていた。
彼は、心底怒っていた。
困惑もしていたかもしれない。
途方にも暮れていたのかも、しれない。
今年に入ってもう、十件以上に上る報告を受け、その報告に対して何もできない現状に苛立っていたのだ。
短い青髪に灰色の瞳を持つ彼は、リュンゲルム皇国の栄えある第三騎士団を束ねる長であった。
―――この国を守る立場であるはずなのに、なにも、できないなんて!!
腹立ち紛れに団長の執務室のドアを思いっきり蹴り飛ばして中に入ってみてももちろん苛立ちは治まるはずもなく。
「おやおや、かなりご立腹のようだねぇ」
すでに執務室で彼を待っていたらしい、青年の暢気な声にため息をついた。