黒薔薇の命約
今回起こった事件が大きく取り上げられたのは、とある上級貴族が事件の被害者であったことからだ。
――最もそれ以前からラディンは報告だけは受けていて、何とかならないかと方策に頭を悩ませていたのだが。
皇国騎士団を動かすとなると、それなりの名目は必要となってくる。
それ故、上の許可を得ようとラディンは必死に動いているのだが……
結局、ラディンに動かれて解決されることを恐れる一部の馬鹿共の妨害にあって、手を出せずにいるのが現状だ。
「おい、アベリス。お前何とか上に繋ぎとれねぇ?」
二人の間にあった机を真っ二つにした後、少しは鬱憤が薄れたのか、先程よりは冷静な声色でラディンはアベリスを窺った。
「うーん……僕は父上にあんまり気に入られてないしねぇ。ちなみに君も、父上はあまりお好きじゃないみたいだし!」
にっこりと笑いながら、余り笑えない話をするアベリス。
彼は、上級貴族の出身でありながら、ラディンと行動を共にすることを選んだ言わば変わり者として王宮ではやはり、敬遠されがちな存在と化していた。
「こうなったらどなたか大きな権力者にお出まし頂くしかないねぇ…」
にっこりと笑うその顔からは余り歓迎したくない台詞が飛び出した。