黒薔薇の命約
ラディンはゲンナリしつつ考える。
「権力者って……。殿下はまずいぞ。そんなことで殿下のお立場を悪くするわけにはいかないんだからさ」
「殿下じゃなくってさ。力を貸して頂ければこれ以上ないくらいのお墨付き、て方が、いらっしゃるじゃないの。しかも人格者でいらっしゃるし……なによりも、ファゼルがお願いして断られた相手だし」
「ファゼルが……?」
思案顔のラディンは目を見開く。
「サウンベル候か!」
「そうそう。なんたって王宮内で一番の権力者でいらっしゃるし、誰も文句はつけられないよ。君も、御貴族様に近づくのを嫌がってたけども……いい加減それじゃまずいってわかってるんでしょ?」
のんびりと言葉を紡ぐアベリスはあくまでも楽しそうだ。
「貴族は嫌いなんだよ……。なにかっつーと身分がどーのとうるせぇしさ……」
「サウンベル候は良い方だよ?何よりもあの方は『海』のことについて詳しくていらっしゃるし。突撃してみても罰はあたんないんじゃないかなぁ?」
「――あー、くそっ。ご機嫌伺いとやらなんて俺のガラじゃねぇのにっ」
心底イライラした態度を隠さないラディンを見て、貴族とだからと言って全部一緒じゃないのになぁ、とアベリスは友人であり上司でもある、ラディンを困った目で見つめていた。