君を借りてもいいですか?
「これなら結婚願望もないだろうな」

「何か言った?」

心の声が口から出てしまっていた。

「いえいえ、素晴らしいお部屋ですね」

「そう?友人たちからは、綺麗すぎて逆に落ち着かないって言われるんだよ」

わかるわかるとうんうん頷くと白石さんがくすくす笑い出した。

「え?」

「ううん。なんでもないよ。ところで打ち合わせの前に夕飯食べない?」

え?もしかして白石さんって料理もできる人?それとも私が何か作るとか?

その場で突っ立っていると白石さんはキッチンに入った。

慌てて後についてい行くと、白石さんはホーローの鍋の蓋を開け、中身を確認して視線を私に向けた。

「週に3回家政婦さんにきてもらってるんだ」

白石さんは満面の笑みを浮かべ、鍋の中の料理の匂いを満足そうに嗅いでいる。

こりゃ〜結婚なんて必要ないはずだと確信した。

きっと周りから子孫を残せという圧力に負けて結婚するまでは、この生活をキープしたいのだろうな〜
そして今はまだその圧に耐えられてるってわけだね。と勝手に推測をする私。

「料理はできる方?」

白石さんは鍋の中身をかき混ぜながら尋ねてきた。

「一応できますよ。こう見えて一人暮らしは長いので」

できない女と思われたくなくいて、ちょっとアピールしてみる。

「じゃあ〜そこのバゲットをカットしてトースターで焼いて」

「え?は、はい」
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