君を借りてもいいですか?
「なんかセレブって感じだね。この辺は絶対に白石さんだとバレないように別の企業とかに変更するね。栞もそうだな〜図書館司書ではなく、本屋で働くOLってことにしようかな〜」

私だとバレなきゃ何でもいいと答えると亜矢は話を進めた。

「とりあえず栞のことはよく知ってるから面白く脚色して、名前を呼ぶ練習をしたり初めての高層マンションにドキドキしたり、何年かぶりの外泊はお互いおことを夜通し話したって感じにまとめるよ」

「うん。でもくれぐれもバレないようにね」

「わかってるって〜でもさ、本当に単なる恋人役で終わるのかな?」

「は?何言ってんの?」

亜矢は何を考えているのかわからないような笑みを浮かべながら「何でない」と言って席を立った。


打ち合わせを終え、一人になった私。特に用事もないし、ぶらぶらして帰ろうと駅の方へと向かっていると大きな看板に目がいく。

「近代美術展?しかも明日まで?」

これはまさに私に見に行きなさいと言っているようなものだ。

本も好きだが絵を見るのも好きだ。

詳しくないけど時々すごく引き込まれるような絵に出会うことがあって、そういう出会いを求めて展示会があると足を運ぶ。最近は自分も含め周りもバタバタしてて気持ちに余裕がなくていた。

私はその足で美術館へと向かった。
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