君を借りてもいいですか?
平日だが、明日で展示会が終わるということで多くの人が足を運んでいた。

20代初めの頃はチケット売り場で「大人一枚」というのも何だか恥ずかしかったけど、今は、おひとりさまが板につき、何の躊躇もなく「大人一枚」と言える今。

まさか、あんな大役を引き受けてしまうとは、チケットを受け取りながら思い出し、なんとも言えないため息が漏れる。


館内はとても静かだった。

絵の好きな人が展示物を真剣な眼差しで見ている。

図書館と少し似ていて、この静けさが私は好きだ。そしてゆっくりと絵を鑑賞しているとある1枚の絵に目が止まった。

外国の風景画なのだが、なんだか見ているだけでホッとするというのか落ち着くというか、気がつくとそばにあった椅子に座ってその絵を眺めていた。

しばらくその絵に見入っていたのだが、ふっと私の前に一人の女性が風景画の前で足を止めた。

一人で見に来ているようだが、なんだか他の人とは違うオーラを感じた。

なんだろう、初めて見る感じがしないのだ。気づけば絵よりも女性の方に目がいっていた。

すると、私の視線を感じたのか、振り向いた。

「ごめんなさい、邪魔ですよね?」

女性が私に謝ってきた。

「いえ、全然いいです」

とっさに謝り、女性の顔を見てハッとした。

あれ?この人見たことある。誰だっけ?
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