君を借りてもいいですか?
私は湊人の返事を待った。

「それは…楽しかったから」

「はい?」

予想外の答えだった。

驚く私に湊人は笑顔を見せ、話を続けた。

「この部屋に栞を入れるまでは正直、早く家政婦さんを見つけないとな〜ぐらいにしか思ってなかったけど、一緒に掃除して、お使いに行って、栞の作ったご飯を食べて…それがすごく楽しかった。自分の家にいてこんなに楽しいと思ったのは初めてかもしれない」

湊人が楽しそうに話す姿は、とても嘘を言っているようには思えなかった。

だが、聞いてる私は複雑だった。だって男性から私と一緒にいて楽しいだなんて初めて言われたんだもん。私今、どんな顔してるんだろう。

でも、それって偽の婚約者に言っていい言葉なの?

「だったら…結婚したらいいじゃない。結女花さんだったら私なんかよりきっと美味しいご飯を用意してくれてお部屋だって私みたいに文句も言わず、喜んでするはずよ」

そうよ。だって結女花さんは湊人のことを気に入っているんだもん。その方が湊人にとってきっと……

「何言ってんの?俺は今、栞と一緒に居て楽しいって言ってんの。話を被せるな」

「でも––」

私は単なる婚約者役でしょ?と言いたかったのに

「何年もって言っている訳じゃない。だから一緒に暮らしてほしい」

さっきと一緒。帰ろうとしたら湊人の優しい声にドキドキして、頭ではこんなのおかしいって思うのに
まるで魔法にかかったように私は頷いていた。
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