きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
「櫻子はなーんにも心配しなくていいからね」
シンちゃんはまた、ぎゅーっとわたしを抱きしめた。
「で…でも……あのね……んっ!?」
なにかを言いかけると、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。
「仕事の方は櫻子がやりたいと思えば、好きなようにしてね。司書の仕事をゆっくりと探せばいいよ……だけど、できたら僕の第二秘書になってくれたらうれしいなぁ。青井は秘書としては優秀だけど、厳しいから雰囲気が殺伐とするときがあるんだ。櫻子がいてくれれば、仕事中でも癒されるんだけどなぁ。それに、僕の実家の近所に住む幼なじみの子がね、結婚してご主人の秘書をしてるんだよ。うらやましいなぁって、ずっと思ってたんだ」
くちびるを離したシンちゃんが嬉々として話す。
「で…でも……あのね……んっ!?」
また、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。
「櫻子がこの家を離れたくない気持ちは、よーく理解ってるよ。もちろん、結婚してからも、僕も一緒にこの家に住んで、ここから会社に通うからね。ほんとは、運転手が僕を社用車で送り迎えしなきゃいけないから、少々会社から遠くったって全然大丈夫なんだよ。言ったでしょ?うちの実家の方は弟夫婦が住んでくれてるから、なぁーんにも気にすることないんだよ?」
くちびるを離したシンちゃんが嬉々として話す。
「で…でも……あのね……んっ!?」
また、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。
「それに、この界隈の人たちは僕のことを『葛城家の萬年堂の後継者』ではなく、ただの『シンちゃん』として接してくれるから。
……この歳になって、こんなに『シンちゃん』って呼ばれるのがうれしいなんてなぁ」
くちびるを離したシンちゃんが、しみじみと、噛みしめるように言った。
「生まれてからずっと実家で住んでたから、こんなに何のしがらみもなく、のびのびと暮らせるのは……初めてなんだ」