突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜
祖母の家の界隈は、昭和の高度経済成長の際に宅地分譲されたニュータウンの先駆けだ。
まだ電鉄会社が沿線の拡張とともに宅地開発に乗り出すようになる前で、都や区の住宅不足解消の音頭によって、地元の不動産会社が開発した住宅地だった。(なので、近くに駅がないのだ)
だから住民には、自分は区の手狭な中心部で生まれ育ったけれども、家庭を持ったら「郊外」で子どもを伸び伸びと育てたいと思う人たちが多かった。わたしの祖父母もそうだった。
あの頃には「今時の洒落た」間取りだったかもしれない、玄関を上ってすぐのところにある八帖ほどの「応接間」へ葛城さんを通した。
葛城さんは部屋の中をぐるっと見回す。
「海外では、日本でいうと高度経済成長期のあたりになる、二十世紀半ばの『ミッドセンチュリー』の頃の建築やインテリアが、アール・ヌーヴォーやアール・デコと並び称されるようになってきたんだよ」
わたしは「どうぞ」とソファを勧めた。
この家の「建築」はともかく、残念ながら「インテリア」であるソファは、昭和のミッドセンチュリーではなく、平成の時代になってからのIKEAのものだ。
わたしにまだボーナスがあった「みなし公務員」だった数年前に買った。あの頃は、この中途半端に「古い」家を「北欧風」にしようとがんばっていた。
「……葛城さん、なんでおばちゃんたちにあんなウソを言ったんですか?」
わたしにしてはめずらしく、怒っていた。
「ん?」とソファに腰を下ろした葛城さんが、わたしを見る。