きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜

「また不審者が出たっていうからね。
そいつを欺くためには、まず身近な人から信じてもらわないと」

葛城さんは平然と言う。

「僕はこう見えて、いったん引き受けたことは投げ出さずに(まっと)うするよ」

魅惑的な顔で、にやり、と笑う。

……「こう見えて」と言われても、あなたとは今日初めてしゃべったんですけれどもっ!

「心配しなくても大丈夫だよ。着替えはちゃんと先刻ドンキで買ったから」

葛城さんは黄色いポリエチレンの袋を持ち上げ「ほら」と中を見せると、そこにはスウェットやら下着やらが入っていた。

わたしはムンクの顔になった。

……いやいやいや。そんな「心配」なんかしてないしっ!それに……最初からうちに泊まる気だったのっ!?

「明日、土曜日で会社が休みだから、当面の着替えを持ってくるよ」

やはり葛城さんは至極当然のように続ける。

「あ、ちゃんと家賃と生活費は入れるからね」

「ちょ…ちょっと待ってください」

固まっていたわたしが、ようやく口を開くと、

「……櫻子さん」

葛城さんが急に神妙な顔になる。

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