突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜

「絶対にそんなことはないんだって!
……だってねぇ、シンちゃんは、土日だってスーツ姿で出かけるんだよ?わたしたちはシフトが入ってることが多いけど、普通のサラリーマンってお休みの日だよね?」

「同居」を決めた週末は、わたしが年に数回あるかないかの土日が休みのシフトだったためずっと家にいたのだが、翌週からはうって変わって、シンちゃんは必ず外へ出かけるようになったのだ。

「……夜は帰ってくるんですよね?
どっかに泊まってくるなんてことは?」

真生ちゃんは大根のぱりぱりサラダを、上にまぶされた短冊状に切られた海苔もろとも頬張る。
海苔は歯や唇につきやすいから、合コンなんかでは「要注意」な代物なのだが、今夜は「女子会」だから無礼講だ。

「うん、それはないんだけれども」

テーブルの上に置いたスマホのディスプレイには、またシンちゃんからのポップアップが浮かんでいた。音はバイブにしているが、周囲の喧騒でまったく聞こえない。

「……どっかに行ってるわりには、LINEで『安否確認』はしょっちゅうしてくるんだよね」

「葛城さんは、どこへ行くとかは言わないんですか?」

真生ちゃんがぱりぱり大根を、もぎゅ、と噛んだ口のまま、眉間にシワを寄せている。
どうやら酔いは、ラララ星の彼方へ飛んで行ったみたいだ。

「うん……言わないわね。
わたしの方も、こんな身勝手なお願いして迷惑かけてるわけだから、そんなプライバシーに立ち入るようなことは訊けなくて……」

わたしはふぅーっと、ため息を吐く。

「……もし、シンちゃんに恋人がいて、その人に会ってるんだとしたら、申し訳ないからさ。『夫』役をしてもらってるのを終わりにしようかな、って思ってるんだけど……ほら、図書館も今日で辞職してウワサなんてどうでもよくなったし、それに最近はうちの周りに不審者が出没することもないみたいだから、もう潮時でしょ?」

そう言って、わたしは和風おろしポン酢のサイコロステーキを、お箸で突っついた。

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