王子様とブーランジェール




そして、数分後。

やっと桃李がトイレから出てきた。



「………」



無言で、真っ青な顔をして出てくる。

ハンカチで口元を押さえて、よろよろと歩いていた。




「…吐いてきたのか」

問いかけに、ひとつ頷くのみである。

「…うがいしてきたか?」

また、頷いた。



とりあえず、近くにあったベンチに座らせる。

少し休ませなければと思った。

ベンチに座るなり、その上でうずくまる。

これじゃあ、あの二人と全く一緒だ。



俺もその隣にドカッと座り込む。

桃李…今日は髪をまとめている。

編み込みもしてあって、黒沢さんにやってもらったのか?

かわいい…。




「おまえ、ジェットコースターに乗ったのか…」

ハンカチで口元を押さえたまま、頷いている。

「何回乗った」

「5回…」

「…はぁ?5回?」

「松嶋がジェットコースター全制覇するって言うから…」

出た。松嶋。

同じようなふざけたことを言ってるヤツ、まだいたのか。

ため息が出る。

「乗れないくせに、何で付き合うかな」

「…乗れったら乗れって言われたんだもん…」

「松嶋は?」

「りみちゃんたちと違うジェットコースターに行った…私、置いてかれた…」

何てこった。

友人たちに置いてきぼりにされるとわ。

で、路上に倒れ、一人で吐きそうになってたのか。

何とも言えない、哀れなヤツだ…。




「あぁぁぁ…」



急にガクッとうつむいて、変な声をあげた。

「ど、どうした!」

突然の奇行に驚かされる。

「私って…私ってダメな人間だなーって思って…」

「はぁ?」

驚きが重なる。

桃李の口から、そんなセリフが出るとは思ってもみなかった。

ダメ人間だってこと、自覚してたのか!…じゃなくて。

「…ジェットコースターに乗れないからダメ人間ってことは、別になくね?」

「いや、それだけじゃないの、わかってるでしょ…」

驚いた。

桃李がここまで自覚していたとは。




桃李はうつむいたまま、静かに嘆き続けている。



「あぁぁぁ…どうすれば、ちゃんと出来るんだろう…どうすれば、ダメ人間じゃなくなるんだろう…どうすれば、まともな人間になれるんだろう…」



すげえ、じめじめしている。

昨日の気持ち悪いコースと同じくらい。



ちょっと、イラッとした。



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