王子様とブーランジェール




「じゃあ、今日はこれで許してあげる」



更にネクタイを引っ張られ、彼女の顔が近付いてくる。

や、やめっ…!

拒否する間もなく、唇には生暖かさと感触が。

チュッと、音まで鳴らして。



「ごちそうさまっ」



ようやくネクタイを離した。

かと思いきや、隙だらけの俺の体にぎゅっと抱きついてくる。



「今度は、夜、にね?」



そして、「バイバーイ!」と、手を振りながら、笑顔で去っていく。



やられた…!

またしても、犯された…!



突然の奇襲に、頭が真っ白になった。

魂抜けて…フリーズだ。



あぁぁぁぁ…。



全身ガクッとなる。

思わず、その場に座り込んでしまった。

こんな、階段の踊り場という、人目につくところで。

「さ、さすがイケメンハンター…」

「俺、他人のキスシーン、生で見たの初めて…」

「ちょっと、ムラッときたよな…」

「あ、あぁ…」

陣太と咲哉も呆然としている。

友達が見てる前で…!

あのアマぁっ!!




「…撮れたか?」

「あぁ、撮れた」




しかし。

友人二人は、こそこそと俺に背を向けて話をしている。

スマホを見せ合っているようだ。



まさか…。

いや、あんなピンチになりながらも、俺は周りの状況はわかっていたぞ?

おまえら…!



「…撮りやがったな?!」



声を荒げると、二人はビクッと体を震わせた。

わかっていたぞ!チラチラとスマホのカメラを向けて、今の一部始終を撮っていたのを…!



「…ごめん夏輝!」

「だってだって!嵐さんと夏輝が会っている動画を撮って渡せば、おこづかいくれるって言うんだ!」

「3-5の上山さんが!『嵐、ナツキくんにまた色仕掛けすると思うから、写真や動画撮ったらおこづかいあ・げ・る』ってさ!」

「…はぁ?…菜月が?」

「そうそう、上山さん、超エロい雰囲気の美人な人!」



菜月ぃ?!

迂闊だった…!

おまえら、菜月の手中にハマっていたのか?



『今度、嵐とイチャこくようなことがあれば…!』



狭山のいつかのセリフが、頭を過った。

まさか、俺の友達を買収するなんて…!



「陣太、早く上山さんのとこに行くぞ!…夏輝に殺される前に!」

「お、おう!夏輝、ごめんな!おこづかいもらったら、アイスコーヒーでもパンでも何でも奢ってやるからな?」



そう言って、二人はすたこらと3年のフロアへと逃げていった。




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