王子様とブーランジェール



嵐さんは俺に近付くなり、手を伸ばしてくる。

さりげなく後ろに下がってかわした。

「…もう!何で逃げるのよ!」

「うるっせぇな!もう来んなって言ってんだろ!」

…抱きついてこようったって、そうはいくか!

桃李の見てる前で何を!



「あ、こんにちは…先日はどうも…」


すると、突然。

傍にいた桃李が、ペコリと頭を下げた。

嵐さんに向かって…?


「………」

対する嵐さんは、絶句している。

…え?

表情がガラリと変わった。

それは…今までに見たことない。

憎悪、ともいえる、敵意剥き出しの表情で…。



「あんた…このクラスだったの?」



嵐さんの声のトーンが落ちている。

ドスがきいてるワケでもなく…トゲがあるような話し方だ。



「え、あ、はい…神田です…天パ眼鏡の…」

「…はぁっ?!あの、天パ眼鏡ぇっ?!」

「あ…はい…」



またしても、嵐さんは無言になる。

その敵意剥き出しの表情で、桃李を睨み付けていた。



…えっ?!

な、何で…?



「あんた…いったい…何?」

「…え?」

「あれ…どういうことなの…?」

「どういうことって…?」

「…答えなさいよ!!」

そう言って、桃李に手を伸ばし、飛び掛かろうとしていた。

ちょっ…!



「…やめろ!」



とっさに桃李を背にして、二人の間に入る。

突然俺が目の前に出てきたところで、嵐さんは、動きを止めた。



「…どいてよ!竜堂くんはカンケーないでしょ!…この女ぁっ!」

「…目の前で急にケンカ仕掛けようとしてたら、誰だって仲裁に入りますよ!…何なんですかあなたは!」

「…どいて!どいてよ!」

まずいぞ。何なんだこの女。

急に桃李に敵意剥き出しだなんて!

それに、こんなに騒いでいたら、周りが…。



「…桃李!中入れ!」

「えっ…あの、その…」

桃李はワケが分からないのか、戸惑って多少挙動不審になっている。

「…いいから中に入ってろ!」

「…えっ!」

動かない桃李を、無理矢理教室に押し込み、ドアを閉めた。

これ以上、嵐さんの視界に桃李を入れてはいけない。

って、何なんだマジで!



「………」



桃李がいなくなったところで。

嵐さんは、急に静かになった。

だが、敵意剥き出しの表情は、まだ残っている。



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