王子様とブーランジェール
「まずね、ここに100円玉を入れます」
デスクトップの画面の横に、コイン投入口がある。
菜月はそこに100円玉を入れた。
すると、パソコンの画面が変わった。
そのトップ画面がおぞましいモノであった。
『胸キュンシアター』
『イケメンと甘いひとときを過ごしませんか?』
「…はぁっ?!何だこれは!」
タイトル共に出てきたトップ画面の画像…!
俺と、理人!
「まあまあ騒ぐな」
「続き、上山さんお願いします!」
前にいる二人に宥められる。
本当に嫌な予感しかしないぞって!
「…で、スタートをクリック」
すると、メニュー画面に切り替わった。
「………」
開いた口が塞がらない…。
まるで某動画サイトのように、写真とタイトルがついたアイコンが羅列されている。
竜堂夏輝~壁ドン『俺だけを見ろ、逃がさねえ』
和田理人~玄関にて『一緒に帰らない?』
など。などなど。
ずらりと20個ほど…。
って、これって…!
「って!これ、この間撮ったやつかぁっ!…おまえら、何でこんなことしてんだって!!」
動画!
先日の胸キュン動画コンテストじゃねえか!
流出させたのか!
…こいつらぁっ!
「いやー。上山さんに見せたら『これは使える。一儲けできる』って言われちゃってさー?」
「思わず渡しちゃった。動画。綺麗に修正してくれたし?」
「うふふ。いい感じに仕上げてるから。エリに見せたらフリーズしてたよ?エリでその反応なら、女子悩殺間違いなし」
菜月はうふふと思い出し笑いをしている。
「マジっすか!狭山さん、どれでフリーズ?」
「エリのお気に入りはたぶん、ナツキくんの玄関でのバックハグかな。あれ見た後にしばらく使い物にならなくなっちゃった」
「あー。あのセンパイ設定のやつ」
そして、菜月はアイコンをクリックする。
動画、再生された。
靴箱が映っている。
『…センパイ!待って!』
カメラの視線が動いた。
その先には、向こうから来た俺が映っていた。
…これ、陣太のこだわりで設定細かくしたんだよな。
実際、咲哉に後ろから抱きついて…。
『…センパイ、俺じゃダメですか?』
靴箱しか映ってなかった視界。
見上げるように視線が動いて。
最後に俺、チラッと映る、みたいな。
「このナツキくんの声も武器だよね。男前キャラ担当の声優の声みたいな?」
これのどこが良いのか、さっぱりわからん。
再起不能になる理由も。