王子様とブーランジェール




「桃李は健気なんです。真っ直ぐだし素直だし。一生懸命。だから、応援したくなっちゃって」

「健気…かなりヌケてるけどな」

仙道先生の「あはは…」という、苦笑いが聞こえる。

「このダンスをやるきっかけになったのも、一緒に踊っている男子に『おまえはもっと自信を持った方が良い。いつまでもモブでいるな』って言われて、やろうと思ったんですって」

「モブねぇ…モブでもねえけどな。悪目立ちはしてる」

その通り。

モブのように過ごしているが、実は遅刻したりドジったりと悪目立ちをしている、それが神田桃李だ。



俺的には、桃李はモブのままでよかったとは思ってはいたんだけどな…。




天パ眼鏡をやめて素顔を曝すことを恐れていた俺なんだけれど。

でも、そうなってしまったら、それはそれで。

桃李の新しい一面を見ることが出来て。

また、好きになる。



恐れてばかりでは、何も始まらなかったし、進まなかったのかもしれない。



そう思うと、保守的だった自分が馬鹿らしく思えるな。

なんだかな…。





「…ねえ、糸田先生?」

「あ?」

「みんな、輝いてますね」

「…懐かしいか?」

彼女は、頷く。



「私も、輝いていたかな…」



それを聞いていた糸田先生は、ブッと笑う。



「おまえはビッカビカだったじゃねえかよこの野郎」

「そう?」

「何だ何だ。アイツに浮気でもされたか?」

「…疑惑」

「…あぁっ?!冗談で言ったのにマジか!…今すぐあのヘタレ連れてこい!殺してやる!」

「もう、先生ってば」

殺してやる!って…糸田先生と俺、口癖一緒?

俺達、似てんの?





いつの間にか、曲も変わっており。

さっきよりテンポの速い曲だけど。

桃李…着いていけてるぞ。

疲れてないのか。

こんなに動き続けているのに、へばってないとは!

信じられん。



そして、スカートから伸びる足が細くてキレイだとか。

腰を小刻みに振っていて、へそ出しのお腹が細いとか。

そんなこと考えて、エロくてすみませんと思いながら。



…出てきた。

ついに、出てきたぞ。

音楽に合わせて、ステージの奥から行進するように、出てきたぞ…!



ステージを見ている生徒も気付いたのか。

どよめきと、女子の歓声が混ざっている。



『きゃあああーっ!!』

『和田くぅぅーんっ!!』


今の声、絶対まゆマネだ。



女子の中にいると、一人体がデカくて、一際目立つ…!

変態が登場した…!

理人だ…!



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