王子様とブーランジェール



ヤバいぞこれ。思わず笑いを漏らしそうになる。

松嶋、真顔。なのに、動きが変に機敏…!

ステージ周りの生徒は遠慮なく、女装ダンサー松嶋に大爆笑だ。

女子の『キャー!』っていう歓声も響いている。

しかし、ここでは一人大爆笑はヤバい!

笑いを堪えるのに必死だ。

ヤバいヤバいヤバい…。



前奏が終わって、メロディーに入ると、松嶋中心に全員して踊り出した。

統一感あって…な、何か。

なかなかの腕前じゃねえのか女子たち。

ほぼ完璧に完コピだ。



「わぁ。みんな上手ですね、先生」

「まあ、やたら気合い入れて練習してたからなー」

「これならステージバトルの優勝、狙えそうですね。焼き肉食べ放題」

「おっ。言ってくれるねぇ。ステージの女王?」

何だ。

このステージ発表、優勝とかあんの?

焼き肉食べ放題が景品なの?

だとしたら、うちの高校、どんだけ焼き肉食べ放題に価値観感じてんの?




桃李も松嶋の隣で踊り始めているが。




(おっ…)



その姿は、予想外だった。



ダンスの速い振り付けに、着いていけている。

動きもふにゃふにゃしておらず。

それなりに機敏だぞ。

柳川と見比べるとまだまだではあるが。

しっかりとダンスになっている…!

あんなに頭や腰を振っていても、くるっと回っていても、吐きそうになっていない!

高くジャンプもしているぞ!



マジか…!



さすが、猛練習の成果。

ぶっ倒れるぐらいまで頑張った練習の成果だ。

桃李、おまえ。

やれば出来るんだな。



(頑張った…んだな)



さっきの照れの感情とか、直視できないとか。

そんなもの、どこへ行ったのやら。

ちゃんと見ていられるよ。



惚れ直した。

その格好のまま、今すぐ俺んちに来い!



…じゃねえっつーの。



桃李が足を大きく振り上げた。

あっ…。

スカートがふわっとなった…!

ち、チラリズムだ…!



俺も、健全なDK…しかし、同じことを考えたヤツが他にもいると思うと、イラッとする反面、軽く自己嫌悪に陥った。

ださっ…。



柳川と桃李がそれぞれ一人で踊って、最後に松嶋にどつかれる、という笑いを絡めた振り付けもあり。

その場面を見て、超美人は「よしっ」と、呟いていた。



「やった。今のところ成功。よかったー」

小さく拍手していた。

「随分入れ込んでるな?」

仙道先生もステージに目をやりながら、呟いた。

超美人に問いかけている。


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