王子様とブーランジェール




事務仕事、絶賛募集中。



…と、いうワケにはいかず。

もちろん事務仕事なんてあるワケがない。



ボーッと座っていたら、女子が「竜堂くん、呼んでる人いるよー」と、声をかけてくる。

「は?誰」

「三年生みたい」

俺に用事がある三年生…。

もう、嫌な予感しかしない。



席を立つのを躊躇っていたが。



「…おぉい!竜堂!早く出てこい!バカめ!」



やはりな…。

この甲高いアニメ声。加えて口癖の『バカめ!』。

狭山だ…。

ったく、昨日今日で、いったい何の用事だっつーの。

また耳元で囁くぞ。



ダルい体を抱えて、ゆっくりと席を立ち、廊下へと出る。



だが、来客は狭山だけではなかった。



え…。



そこには、狭山を先頭に。

潤さん、奈緒美、菜月。そして、まゆマネ。美梨也。

先代ミスターのファンクラブの『残党』の主要メンバーの方々だ。

なぜか、みんな神妙な顔をしており、登場した俺をじっと見ている。

な、何で?



そして…。



「…ん?あれ?」



彼女たちの後ろには、サッカー部の先輩が、一人。

彼女たちと同じような面持ちで、後ろに立っていた。

「あれ?美作さん?」

三年生の先輩、美作さんだ。

いつも大河原さんたちと一緒にいる、先輩。

実は、桃李がコンタクトを作りに行った日、この人も俺達と一緒にイオンにいた。

存在薄く、冷やしそばなんて食べていたけど。

大河原さんとは違って、どちらかといえば、ひっそりと何気なく存在している、いわばモブキャラなのだが。

なぜ、狭山らと一緒にいるんだ…。



しかし、美作さんは、俺の声かけには返事をせず。

狭山らと同じような面持ちをしているのは、なぜ?

まるで残党の一員みたいだ。



しかし、あまりにも不思議な光景で、突っ込みたくなる。



「…っていうか、美作さん、何で一緒にいるんすか?」

すると、美作さんはその神妙な面持ちのまま、言い捨てる。

「竜堂、そんなことは問題じゃない!」

「は?」

な、何?何怒っちゃってんの?

「みまくんは、偶然私たちの話を聞いて一緒に来ただけー」

「勝手に着いてきたのさ、この陰キャヤロー」

代わりにまゆマネが説明してくれた。

美梨也、そのセリフは実は言ってならないと思うんだけど…。


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