王子様とブーランジェール




北国の学校の夏休みは短い。

お盆がすぎ、8月が終わる前には二学期が始まる。

夏休みも気がつけば、残りあと一週間。



なのに、桃李はまだ帰って来ない…。



理人はもちろん、母である苺さんに聞いても、友人である秋緒に聞いても、帰国する日がよくわからない。

本当に帰って来んの?

…ちなみに、秋緒は、桃李のフランス行きを知っていたらしい。

学祭に遊びに行った時、花火大会に誘ったら、そのような理由で断られたとのことだ。

って、花火大会、おまえも?

双子揃って同じことしようとする?

双子、嫌だわ…。



あと一週間、何すっかな。

課題もとっくに終わってるし。

大河原さんに飲みに誘われたけど。

未成年だからと丁重にお断りしてやったら、ダサいとの一言を投げ掛けられた。

絶対女いる。冗談じゃねえ。

警察に捕まってしまえ。もう。



あー…眠い。



桃李に、会いてえな…。



なんだかんだ、もう三週間も留守にしてるぞ。

こんなに会えないなんて、初めてかもしれない。

長期休暇中でも、ご近所なもんだからそこらへん歩いていたら出くわしていたのに。

会えないなんて…。








「たっだいまー」



玄関のドアがバタンと閉まる音がした。

物音に反応して目が覚めて、思わず体を起こす。

体を起こしたため、腹に乗っていたピンクはゴロゴロと床に転げ落ち、鳴き声をあげていた。

パタパタとスリッパで歩く音がしたと思ったら、リビングのドアがガバッと開く。



「あらっ。涼しい」



そこには、帰宅した母親の姿が。

帰ってくるなり、ソファーにいる俺に気が付く。

「…あら。家にいたのあんた」

「あれ?今日早くね?」

「今日は半ドン。明日からお盆休みで三連休なんだー」

連休を前に嬉しそうにする母親の帰りに、ピンクも尻尾を振って駆け寄る。

「ピンクただいまー。今日は暑いわよ。外に出たら死んじゃうわよー?」

そう言って、寄ってくるピンクを抱き上げている。

「夏輝、お昼は?」

「まだ食べてない…」

「え?もう2時よ?よく死ななかったわね」

「寝てた。何か作って」

「じゃあそうめんでも湯がこうかしら」

そう言って、ピンクを抱いたままキッチンへ赴いている。

明日から三連休で浮かれているのか、鼻唄が聞こえていた。




< 411 / 948 >

この作品をシェア

pagetop