王子様とブーランジェール
『夏輝様にお祝いの言葉と贈り物を差し上げたいのなら、一列にお並びなさいぃぃっ!!』
小笠原がそう怒鳴り散らすと。
「はーい」
「わかりましたー」
そう言って、俺を取り囲んでいた女子達は、俺から離れて速やかに廊下に一列に綺麗に並び始めた。
…えっ!ホントに並んでいる!
小笠原の統率力、半端ねえぞ。
っていうか、一列に並ばれるのも恥ずかしい感じが…。
って、何?
一人ずつ、俺にお祝いの言葉と贈り物を渡してくるワケ?
そんなワケで。
「お誕生日おめでとうございまーす!私からのプレゼントは、ブーランジェリーニシノのクロワッサンですー!先ほど買ってきたので焼きたてでーす!受け取ってくださーい!」
「あ、はい…」
「お誕生日おめでとうございまぁーす!私からはアイスコーヒーセットですー!」
「あ、ありがとうございます…」
「ちょっとー!私もパン買ってきたのにー!…ま、食べ比べで誕生日過ごしてくださーい!ハピバ!」
「は、はぁ…どうも…」
女子が一人ずつ代わる代わる、お祝いの言葉を述べ、贈り物を俺に託していく…。
それを挙動不審気味にひとつひとつ受けとる俺…。
「すみません、私、ナマ物持ってきちゃいました…冷凍してるし、フリーザーバッグに入れてるから帰りまでは大丈夫かと思いますが…」
「…えぇっ!」
ナマ物?何?何を俺にくれちゃってんの??
肉とか魚とか?生鮮食品?…ちょっと、ねえ!
すると、小笠原が「ナマ物は家庭科室のフリーザーストッカーをお借りするので大丈夫ですよ…」と、俺の横で呟いた。
えっ?!何その用意周到さ!
この女子が一列に並んでいる光景といい。
ただただ驚かされるばかりだ。
いったい、何これ?
握手会?サイン会?…いや、プレゼントを贈る会か?
「夏輝様ぁー。あともう少し、ファイトっ」
俺の左隣には、相変わらず山田がくっついて離れない。
いつまでそこにいるんだ、この野郎は。野郎。
しかし、俺の後ろにはいつの間にか理人がいて「夏輝様ぁー。ファイトっ」と、山田のモノマネをしている。
おまえ、面白がってんじゃねえよ…。
次々と渡されるプレゼントは、手に持ちきれなくなってきたところ、咲哉が教室から段ボールや紙袋を持ってきてくれた。
それをせっせと収納する、俺の友達…。
ホントにいったい、何の光景?
卒倒しそうだ。