王子様とブーランジェール
身を隠しながら、スマホを取り出す。
そして、隠れたままその模様を撮影しまくった。
少しでも、一枚でも多く撮れ。
…そうすれば、夏輝が何とかしてくれるかもしれない。なんて。
しかし、フラッシュを焚いているので、割りと早くバレる。
『…あぁ?何だおまえ!…何撮ってんだコラァ!』
田仲をボコボコ殴っていたヤツがこっちに気付き、やってくる。
や、やべっ!
しかし、この梶咲哉という男は、機転が利いた。
途端にカメラを動画に切り替える。
そして、後退りをしながら撮影しながら、メインストリートの方に向かって叫びだした。
『…誰か!誰かぁーっ!おまわりさぁーん!カツアゲですぅーっ!ボコボコですぅーっ!誰か来てくださあぁーいっ!!』
『…てめえ!』
『咲哉!』
胸ぐらを掴まれ、顔面一発殴られ、突き飛ばされる。
しかし、その呼び掛けが利いたのか、自転車に乗っていたおじいちゃんがその場に立ち止まり。
たまたま通りすがった車もその場に一時停止した。
『ちっ…ハケるぞ!』
『…これ、ミスターに渡しとけ!あのスケこましヤロー、出てこいやってな?!ぶっ殺してやるって言っとけ!』
そう言って、慌ててその二つ折りの紙切れを咲哉に叩き付ける。
騒ぎが大きくなることを予感したのか、不良どもは咲哉と田仲をその場に残し、あっという間に消えていった。
『…田仲!大丈夫か!』
とは、言ったものの。
田仲の顔はもうボッコボコで、流血沙汰となっていた。
『咲哉、ごめん…助けてくれてありがとう』
『そんなことより、おまえ、目は大丈夫なのかって!こんなにボコボコになって!』
そんな田仲を家まで送り、傷の手当てをしてやる。
一旦、帰宅するが。
翌朝、心配で様子を見に行った。
…だから、朝練休んだのか。
一晩経ち、顔が更に腫れて痛々しいため、田仲は本日欠席するとのことだった。
「…とりあえず、LINEでこの写真と動画送るからよ?心当たりないか見といてや」
着替えも終わって、教室で咲哉から昨日の一連の話を聞く。
咲哉は狙われたのではなく、止めに入ったのか…。
だがさっき、教室に辿り着く前にも、男子生徒が一人、俺を待ち構えていた。
やはり、顔やらあちこちボコボコにされた跡がある。
そして、そいつも《ミスター出てこいや!》と書かれた二つ折りの紙切れを俺に渡してきた。
また…!