王子様とブーランジェール
姿を現し、辺りを見回して警戒しているようだ。
そして、人がいないのを見計らって、廊下に出る。
何故か忍び足で廊下を歩いていた。
「マジか…」
その姿を見てボソッと呟くと、理人が頭をこづいてくる。
「っつーか、彼女しかいないだろ。こんなことするのは。大体予想はついてた」
黒幕ゴキブリの正体は、鉄板だった。
俺達に見守られているとも知らず、ゴキブリな彼女は、引き続き辺りを警戒しながら忍び足で歩いている。
そして、B教室の前で足を止めた。
B教室のドアをソロッと開けて、中を覗き込んでいる。
ホントにマジか…。
狭山はクックッ…と静かに笑っている。
「…放火犯というものはな?自分が火をつけた後、その現場を見たいがために必ず現場に戻ってくる。そんなメカニズムだろ」
「………」
合っているようで、違うと思う…。
すると、狭山は振り返って俺達の顔を見る。
人差し指を立てて、自分の口に当てる。
静かに、と…?
そのまま少し開いたドアを、音を立てずにゆっくりと更に開ける。
狭山も忍び足でA教室から廊下に出た。
そのまま気配を最小限に、ソロリソロリと歩く。
そして、B教室を覗き続けているゴキブリに近付いて行く。
中を覗くのに夢中なのか、狭山の存在にはちっとも気付いていないようだ。
サイレントな戦いだ。
だが、狭山が、そのサイレントをとうとう打ち破る。
「…よぉ?ここで何やってんだ?あぁ?」
彼女の背後から、声をかける。
とたんに彼女は「…ひっ!」と悲鳴を短くあげ、体を震わす。
恐る恐る後ろを振り返っていた。
「…さ、狭山っ!」
「おうおう。何を覗きしてんだコラ?…男子の着替えでも覗いてんのかバカめ!…なんてな?」
ハッとして、そのドアからパッと離れている。
狭山は、ドヤ顔で彼女の前に立ちはだかっていた。
「さ、狭山っ!何であんたがここに!」
「我々を甘く見るなバカめ!おまえのやってることなどお見通しだ!…あ、偶然居合わせたとかすっとぼけんなよ?…おまえのここでの行動は定点カメラで録画しておる!この色情魔め!」
狭山にジリジリと迫られ、彼女は後退りをし始めている。
圧倒的不利なのだが、気の強い彼女は狭山を睨み返していた。
「バカめ!もう逃げられんぞ!…嵐!」