王子様とブーランジェール



「夏輝、夏輝、ごめん、ごめんねっ…」



桃李の一言に、体を震わせてしまった。

…何でだ。

何で、おまえが俺に謝る?



おまえを傷付けたのは、俺なのに。



「私が悪いの!いつもおどおどしていて気持ち悪いから…みんな、怒っちゃったんだと思う…夏輝にいつも言われてるのに、ごめんねっ…」

「………」

「…な、夏輝は悪くないからねっ?」



…違う。

おまえが挙動不審で気持ち悪いからイジメたんじゃない。

俺がいるから。

俺の傍にいたから、妬みの対象になったんだ。

『俺にいつも言われてるのに』というセリフで、更に胸が締め付けられるように痛くなる。

俺、いつも桃李にそんなこと言ってたのか…?

最低…だな。

俺は悪くない?

…どう考えても、俺に巻き込まれたんだろ?

何でそんなことが言えるんだよ…。




「わ、わ、私、平気だったからね?…叩かれても、蹴られても平気だったのっ…だ、だから心配しないで?気にしないで?ね?」




その言葉を聞いて、余計に胸が詰まりそうになる。

暴力奮われて、平気だった?

んなワケないだろ…?!



先程の、囲まれて殴る蹴るの暴行を受けていた光景が頭を過る。

桃李がぐっと堪えて、じっと黙っているあの顔が。

どれだけ苦痛だったか。

それを『心配しないで?』だなんて。

どれだけ俺に気を遣っているんだよ…。



桃李の『迷惑かけたくない』『心配させたくない』が、ひしひしと伝わってきてしまって。

胸が物凄く痛くて。



桃李にこんなことを言わせてしまうだなんて、もう、情けない。



「あんなことされても平気だからっ…夏輝は悪くないからね?」



やめろ。

やめてくれ。

もう、自分が惨めだ。




愛しくて、大切な人の異変にも気付かず。

俺のせいで、イジメられて。傷付けられて。

挙げ句の果てに、大丈夫とか平気だとか、庇われて気を遣われて。



俺って、いったい何なんだ?



何の頼りにもなってねえじゃねえか。

ダセぇ男だ。



…思えば、俺は普段から桃李を傷付けていたかもしれない。

照れ隠しとはいえ、普段から怒鳴りつけていて。



『こんなカタチでも傷付けるなんて、あんまりじゃない!』



…藤ノ宮の言うとおりだよ。

最近では、何回か本当に泣かしてしまっていたもんな。

本当、最低なヤツだよ。



「…桃李」



やっと出た声は、か細く震えている。

感情が込み上げてきているのか、うまく声が出なかった。



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