王子様とブーランジェール




やれやれ。俺と本気でケンカする気らしい。

表に出ろ、だぞ?

果たし合いかって。



とりあえず、物騒に椅子をもった理人を誘導する。

渡り廊下を通って、西校舎へ。

特別教室を通りすぎて、突き当たり。



先ほどまで引きこもっていた、秘密の小部屋へ。




ポケットから出した鍵で、鉄製の扉を開ける。

まさか、また来ることになるとは…。



「へぇー。ここが特典のお城か」



そういや、理人をここへ招待するのは初めてだった。

「ほら、中に入れ。…椅子!降ろせ!…入り口高さないからぶつかる!」

「はいはい」

理人を中に入れ、鍵をかける。

「こっち」

階段を上がらせ、更に扉を開く。

西校舎の屋上。

そこに、物騒な椅子振り回しヤローを通した。

小部屋に通して、椅子を振り回されて器物損壊もめんどくせー。

だから、今回は屋上に連れていった。



「ちょっと小さい普通の屋上じゃん」

「………」



椅子を手にしたまま、屋上を見渡した理人の開口一番は、普通の感想だった。

当たり前だ。

特別なもんがあっても困る。



理人は持参した椅子を降ろして腰かける。

何だ。その為に持ってきたのか?

おまえ、腰痛持ちだもんな?

だなんて。



「…で、桃李がどうしたって」



椅子を振り下ろされて、背中に押し付けられながらも、その事はずっと気になっていて、早く聞きたかった。

せっかちな俺、ズバッと聞いてしまう。

「………」

すぐには口に出さない理人だが、しばらくの沈黙の後、ようやく口を開いた。


「…おまえが昼休み教室にいないってだけで、軽く騒ぎになってたんだけど。この一週間」

「俺が?何で?」

首を傾げると、理人は鼻で笑う。

「夏輝を観賞しにきたファン達が『竜堂くん、いない!いない!どこー!』だなんて。教室の前、いつもザワザワ」

「………」

観賞…。

やはり、俺は…熊牧場のクマ状態?

「それがどんどん拍車がかかって。ついに喜び組がお怒り」

「…は?小笠原?」

喜び組言うのやめて。

俺、喜んでないから。

「『あなた達が騒いでここにたむろするから、夏輝様はお困りなのです!』とか『夏輝様をそっとしておいて下さいませ!』だとか。その他のファン達と揉めまくり」

「えっ…」

知らなかった。

小笠原やファンの女子たちが騒いでたり、モメてたりしてたなんて…!

理人、さりげに小笠原のモノマネしたな?



「な、何で教えてくれないんだ!」



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