王子様とブーランジェール
すると、理人のシラケた痛い視線が突き刺さる。
「あの時の夏輝に何を言っても無駄でしょ。小笠原達だって『そっとしておきたい』って言ってたんだ。まあ俺も、傷心のおまえに言ったところで、傷口が拡がるとも思ったし」
「くっ…」
傷心…そうかもしれなかったけど。
そう言われると、つくづくだらしねえな、俺。
そう思われていたなんて、だっせぇ…。
俺がお好み焼きどら衛門をゲットして喜んでいた時に。
まさか裏で、そんなことが…。
そんな、仁義なき戦いが。
「…で、本日。またしても小笠原がお怒り」
「…俺に対して?いないから?」
「いや、まさか。夏輝をこういう状態に陥らせた…桃李をイジメた加害者女子に対してお怒り」
「えっ…」
「元はと言えば、桃李に危害を加えた女子たちのせいだ。夏輝が傷付いて引きこもってんのも、あいつらのせいだ!なんてな」
なんという極端な…!
俺自身に怒りを覚えていても、構わないというのに。
「『粛清してやる!』『ガス室にぶちこんでやる!』って、だいぶご立腹してたよ。…でも、その加害者女子たちに仕返ししても、夏輝は喜ばないし、かえって良くないことを話したんだけど…」
「おまえが?」
「そうだよ。俺は宥め役」
「らしくねえ…」
「俺もそう思うわ」
理人が女を宥める。…どうなってんだ。
何が起こっていたか、イメージがし難い。
しかし、理人の言うとおりだ。
あの女子たちに制裁を加えようが、粛清しようが、何も変わらない。
むしろ、もう無駄に血を流すべきじゃない。
それに…もう、引きこもりはやめた。
しょうがないけど、熊牧場のクマになることは耐えて、強くあろうと思う。
守るんだ…全部。
大切な…人を。
…と、思っていたんだけど。
一足遅かったのか。
「そこになぜか狭山さんも加わってやんややんや。…だけど、その話を桃李がいつの間にか聞いていた」
「…桃李が?」
《…夏輝が教室にいないの、あの事が関係してるの?》
《私のせいだ…》
そう言って、一目散に帰り支度をして、カバンを持って、あっという間に教室を飛び出してしまったという。
「な、何だって…」
よく、盗み聞きをするヤツではあったが…。
実際、話の内容を理解していないことが多かったが…。
自分のせいだと言って、教室を飛び出したということは、今回も、変な風に話を捉えて罪悪感を抱えてしまったのか…!