王子様とブーランジェール



すると、理人のシラケた痛い視線が突き刺さる。



「あの時の夏輝に何を言っても無駄でしょ。小笠原達だって『そっとしておきたい』って言ってたんだ。まあ俺も、傷心のおまえに言ったところで、傷口が拡がるとも思ったし」

「くっ…」

傷心…そうかもしれなかったけど。

そう言われると、つくづくだらしねえな、俺。

そう思われていたなんて、だっせぇ…。



俺がお好み焼きどら衛門をゲットして喜んでいた時に。

まさか裏で、そんなことが…。

そんな、仁義なき戦いが。




「…で、本日。またしても小笠原がお怒り」

「…俺に対して?いないから?」

「いや、まさか。夏輝をこういう状態に陥らせた…桃李をイジメた加害者女子に対してお怒り」

「えっ…」

「元はと言えば、桃李に危害を加えた女子たちのせいだ。夏輝が傷付いて引きこもってんのも、あいつらのせいだ!なんてな」

なんという極端な…!

俺自身に怒りを覚えていても、構わないというのに。

「『粛清してやる!』『ガス室にぶちこんでやる!』って、だいぶご立腹してたよ。…でも、その加害者女子たちに仕返ししても、夏輝は喜ばないし、かえって良くないことを話したんだけど…」

「おまえが?」

「そうだよ。俺は宥め役」

「らしくねえ…」

「俺もそう思うわ」

理人が女を宥める。…どうなってんだ。

何が起こっていたか、イメージがし難い。



しかし、理人の言うとおりだ。

あの女子たちに制裁を加えようが、粛清しようが、何も変わらない。

むしろ、もう無駄に血を流すべきじゃない。

それに…もう、引きこもりはやめた。

しょうがないけど、熊牧場のクマになることは耐えて、強くあろうと思う。

守るんだ…全部。

大切な…人を。



…と、思っていたんだけど。

一足遅かったのか。




「そこになぜか狭山さんも加わってやんややんや。…だけど、その話を桃李がいつの間にか聞いていた」

「…桃李が?」




《…夏輝が教室にいないの、あの事が関係してるの?》

《私のせいだ…》




そう言って、一目散に帰り支度をして、カバンを持って、あっという間に教室を飛び出してしまったという。




「な、何だって…」



よく、盗み聞きをするヤツではあったが…。

実際、話の内容を理解していないことが多かったが…。

自分のせいだと言って、教室を飛び出したということは、今回も、変な風に話を捉えて罪悪感を抱えてしまったのか…!




< 734 / 948 >

この作品をシェア

pagetop