王子様とブーランジェール



「わあぁぁぁぁ…うあぁぁぁーっ!」



ただただ、声をあげて泣き続けている。

そのうち、両腕で目元を伏せて泣いていた。

その隙間から、涙が頬を滴っているのも見えると、たまらなく罪悪感を感じる。



「…桃李!…おい!泣くな!」



その罪悪感をどうにか払拭したくて、呼び掛けてみるが。

泣くので精一杯になっているヤツには届いてない。



「うあぁぁぁーっ!…わあぁぁぁ…」

「…泣くな!話を聞け!」



あぁ、もう。



「うわあぁぁぁーっ!」

「…桃李!」

「よかったあぁぁっ…」

「……」



今、言葉になったような…。



「い、い、いつも通りで…よよ、よかったあぁぁっ…」

「え…」

「な、夏輝、話し…してくれたっ…うっ…ううぅーっ」

そう言って、ヤツは再び「うあぁぁぁー!」と、号泣を始めた。



(え…)



え、何?

俺が怒鳴ったから泣いてるんじゃ…ないのか?




『いつも通りでよかった』

『夏輝が話してくれた』



それは、先程の理人の言っていたことが…。



《『もう関わるな』って口も聞いてもらえないとか…可哀想で可哀想で》



…リアルに理解できて、身に染みてしまう。



こんな時でも、その『優しさ』とやらに。

胸を、打たれてしまう。




本当なのか?

さっき、理人が言っていたこと。



桃李は、俺のことが…ってやつ。



ひと泣きした後、ヤツは顔を上げた。

バッと勢いよく上げたので、思わずビクッとさせられる。

行動が突発的だよ。

でも、涙で濡れた目をごしごしと拭いている姿を見ると、胸が痛い。



「な、な、夏輝っ…あ、あ、あのっ…」

「な、何だよ…」

「…も、『もう関わるな』なんて、言わないでよぉ…」

「あ…」



その一言は、かなり後悔している。

弱気になってしまって、なんてことを言ったのか、恥ずかしい限りだ。




「…夏輝と話せないの、嫌だよ!…お店にも来ないのも、嫌だよ!」

「と、桃李…」

「もうイジメられないようにするから!…夏輝に迷惑かけないから!…だから、お願い!」

「…そ、それは…」



イジメられないようにするとか、迷惑をかけないとか…。

それは、こっちのセリフだ。

おまえのせいじゃない。



「…あっ。そうだ」



その泣きっ面のまま、何かを思い出した表情をしている。

どうした。



「…あ、あのねっ。いいもの狭山さんから貰ったの。これでもうイジメられないんだ」



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