王子様とブーランジェール



ホント、この二人には感謝しかない。

夏輝と里桜ちゃんのことで頭を抱えて、眠れずに夜が終わる。

気が付けば独りぼっち…と、いったところにやってきてくれた。



あれからも、里桜ちゃんはお店の前には来てるみたい。

理人曰く、夏輝がサッカーやジムや塾に行ってて家にいない時に来るみたい。

でも、いつも来るあの時間には、必ず秋緒か理人が夜までいる。

なので、里桜ちゃんとはしばらく顔を合わせていない。

しばらく平穏な日々が続いていた。



…とは、言えず。



『…ゲスカップルは出入り禁止ですが?何か?』



そう言って、秋緒が立ちはだかる。

…お客様として来店した、夏輝の前に。



『…は?はぁ?…クロワッサン買いに来たんだよ!何で俺まで出禁なんだよ!』

『夏輝くんがここにいると、あのゲス女もついでにやってくるじゃないですか。このゲスカップル』

『…だから!それは、パンダフルにはもう行くなって、里桜にはちゃんと言っておいたって!俺、腹減ってんのに!』

『それは私が帰りにパンを買って帰ると言ってるじゃないですか。家にクロワッサンがあるのですから、店に来る必要ないじゃないですか。ご自宅でお食べください?』

『…そういう問題じゃねえよ!』

そう言って、夏輝は秋緒越しに私の顔を見る。

夏輝の顔を見ると、あの卑猥な話を思い出してしまい、思わず目を逸らしてしまった。



どうやら、秋緒は怒りのあまり…あの一件を夏輝にもの申してしまったみたい。



『夏輝くん、あなた!彼女への躾はどうなっているのですか!二人の情事、交尾の内容を事細かく桃李に暴露するようしつけているのですか!もしそうなら死んでください!許されませんよ!腹立たしい!』



そうして、秋緒の勝手な判断で夏輝もパンダフルを出禁にされている。

このやり取り、二回目だ。



入り口付近でぎゃいのぎゃいのと騒ぐ双子。

そのうち秋緒が入り口に置いてあったスズメバチ退治スプレーを持ち出し、夏輝に向けた。

すると、夏輝はしぶしぶ帰っていく。



『…可哀想だったかな』



ボソッと呟くと、理人が笑っている。

『あいつ、きっとそろそろ桃李不足になってる頃だわ…。おもしれー…』

『…ん?何?』

『あ、いやいや。何でも。…で、可哀想って?夏輝が』

『あ…うん』


笑いが残ったままの表情で、理人はふうと息をつく。



『…桃李は優しすぎる』



< 800 / 948 >

この作品をシェア

pagetop