王子様とブーランジェール


『…優しすぎる?』


オウム返しで呟き返すと、理人は頷く。


『桃李は、どんなにひどいことをされても、結局は許しちゃう。里桜のことも、夏輝のことも』

『…それ、秋緒にも言われた』

『里桜のことも、実は「今、独りぼっちでいるんじゃないかな。可哀想だな」って思ってない?』

『う…』

図星。

あんな嫌な思いしたけど…最近、落ち着いたからなのか、時々思い出しちゃう。

『…夏輝だって、桃李に冷たく当たるのは「桃李には何を言っても結局許してくれる。怒らない」って心の奥底では思ってるからだと思うよ』

『…そうかな。単に私を見てるとイライラするだけじゃないかな』

理人は首を横に振る。

『あいつは手の内知っててずるい男だよ。里桜も。俺は見てて面白くない』

『……』

イマイチピンとこない。

『だから、俺と秋緒は桃李をそんな奴らから守りたくなる。桃李だってたまには本気で怒ったっていいんじゃないの?ガチギレ桃李?』

『もう』



何だか、何もかも見透かされてるな。理人には。

自由奔放で不思議ちゃんなところもあるのに、実はちゃんと考えてて地に足がしっかり着いてる。

それが心強い。







そんな感じで夏休みは進んでいく。

塾に行ってから、お店のお手伝い。そして、夜はみんなと勉強。受験生らしい生活。

夏輝は、クラブチームの引退が近く、大会が立て込んで忙しくしているせいもあり、顔を合わすことはなかった。店には常に秋緒がいるからってこともあるけど。

里桜ちゃんも、お店には現れることはなかった。



…しかし、この後。

私にとって、ターニングポイントとなる出来事が起こる。

私にとって、天国なのか地獄なのか。

…いや、地獄である。





それは、夏休み中の町内会での夏祭りのことだった。


< 801 / 948 >

この作品をシェア

pagetop