王子様とブーランジェール
『…優しすぎる?』
オウム返しで呟き返すと、理人は頷く。
『桃李は、どんなにひどいことをされても、結局は許しちゃう。里桜のことも、夏輝のことも』
『…それ、秋緒にも言われた』
『里桜のことも、実は「今、独りぼっちでいるんじゃないかな。可哀想だな」って思ってない?』
『う…』
図星。
あんな嫌な思いしたけど…最近、落ち着いたからなのか、時々思い出しちゃう。
『…夏輝だって、桃李に冷たく当たるのは「桃李には何を言っても結局許してくれる。怒らない」って心の奥底では思ってるからだと思うよ』
『…そうかな。単に私を見てるとイライラするだけじゃないかな』
理人は首を横に振る。
『あいつは手の内知っててずるい男だよ。里桜も。俺は見てて面白くない』
『……』
イマイチピンとこない。
『だから、俺と秋緒は桃李をそんな奴らから守りたくなる。桃李だってたまには本気で怒ったっていいんじゃないの?ガチギレ桃李?』
『もう』
何だか、何もかも見透かされてるな。理人には。
自由奔放で不思議ちゃんなところもあるのに、実はちゃんと考えてて地に足がしっかり着いてる。
それが心強い。
そんな感じで夏休みは進んでいく。
塾に行ってから、お店のお手伝い。そして、夜はみんなと勉強。受験生らしい生活。
夏輝は、クラブチームの引退が近く、大会が立て込んで忙しくしているせいもあり、顔を合わすことはなかった。店には常に秋緒がいるからってこともあるけど。
里桜ちゃんも、お店には現れることはなかった。
…しかし、この後。
私にとって、ターニングポイントとなる出来事が起こる。
私にとって、天国なのか地獄なのか。
…いや、地獄である。
それは、夏休み中の町内会での夏祭りのことだった。