王子様とブーランジェール




その後、涙を流しながらも再び眠りについてしまう。

そんな中で、温かい夢を見た。



…誰かにお姫様抱っこをされている夢。



顔は見えなくて、誰だかはわからないけど。

私を包んでくれるその腕は、力強くて、暖かくて。

私の流した涙を拭ってくれるその指は、優しくて。

じんわりと、温度が伝わってくる。



…あぁ、これが。

守られている、大切にされているって感覚なんだ。と、思った。



これは、夢なんだけど。

現実の世界でも、こうして私を大切にしてくれる人がいるのかな…。

愛してくれる人、現れるのかな…。



少なくとも、その相手は夏輝ではないことは、確かだ。







…そんな想いを抱えたまま、また時は過ぎる。

私お得意の脅威の集中力で、ラストスパートに詰め込み勉強をした結果、星天高校に見事合格。

晴れて、私は夏輝や理人と同じ高校に入学することになった。



晴れて、なのか。

と、いうには、不安が大きい。

その不安が的中し、三人また同じクラスになってしまった。



そして、更に不安は的中する。



『…桃李!何やってんだおまえは!』

『それから!眼鏡ずれてる!人前で絶対眼鏡をはずすな!』



中学の時とは変わらない、雷、小言は続く。

イライラさせたくないから、視界に入らないように、ひっそりしていようと思うんだけど。

どうしてもあっちから関わってくる。

見ていられないんだと思う。



制服がセーラー、学ランからブレザーに変わり。

それが尚一層大人への変化を感じさせており。

また、改めて夏輝を恐いと思い始めてしまった。



これなら、違うクラスがよかった…。

それなら、余計にダメなところを見せずに済んで、冷たく当たられないのに。




しかし、更なる不安、不幸が私を襲う。



もう、この状況に耐えられない。

自分をとても惨めに思う、出来事が。また。




ある日の昼休み。

私が慌てて教室を出ようとしたところ。

逆に教室に入ってこようとした、三年生のセンパイにぶつかってしまった。



しかし、それは夏輝の新しいお姫様で…。




『竜堂くぅーん、痛いー』

『…桃李おまえぇぇぇっ!謝っていけ!』



大人の空気を纏う、お色気抜群のセンパイは、夏輝の腕にしがみついて、私を上から見下ろす。

腕を貸している夏輝も一緒に。

私を上から見下ろし、怒号をあげた。

冷たい目で。




惨めだ。

惨め過ぎる。

こんなの…もう、嫌だ。






王子様の隣にはいつだって、綺麗なお姫様。

少なくとも、惨めに見下ろされている下僕ではない。



< 824 / 948 >

この作品をシェア

pagetop