王子様とブーランジェール




…結局、私になんて『力』はなかったことを思い知らされた。



無血で解決なんて、無理なのは重々承知だったけれど。

でも、夏輝にこんな思いをさせたくなかった。




私…調子に乗ってたなぁ。

強くなったと勘違いしていた。

結局は、狭山さんと夏輝の力がないと、問題解決出来なかったし。

まだまだだった。




さっきの夏輝の引きこもりの件も、自分が何とかしたかった。

でも、結局、私…いったい何がしたかったんだろう。

ワケの分からないことを言って、泣いて。

仕舞いには…大好きです、とか言ってしまった。




(………)




あそこで言うタイミングじゃなかった。

自分的には。

もっともっと、ちゃんとして、強くなって…いい女に、お姫様になってから言いたかった。




私が『大好きです』言った時の夏輝の顔を思い出す。

口ポカーンで、笑っちゃう。

可愛いかったけどね。

…でも、あの反応からして、言うにはまだ早いタイミングだったかもしれない。

あの表情が何よりの証拠だ。




(あーあ…)




さっきの告白。無しに出来ないだろうか。

はい、ノーカウントです!なんて。

聞き流してくれて、何も言ってこないといいな。

それを祈るしかない。




結果。

私がお姫様になるには、まだまだでした。






(………)





パチッと目が覚める。

視界には、白いボードの天井と、窓の向こうの薄暗くなった外の風景だった。



…あ、そうだ。

私、用務員さんに勧められて、保健室で休ませてもらったんだっけ。

外が薄暗くなっている。

今、何時だろ。

相当寝てしまったことには違いない。

用務員さん、起こしに来てくれてないのかな…。

それとも、私が起きなかったのかな。



布団の中に入ったまま、はぁ…と、ため息をつく。



とりあえず、これからどうしよう。



しばらく考える。



とりあえず…さっきの告白は無しにしよう。

何もなかったかのように、振る舞っておけば、夏輝も夢だったと思うに違いない。

『え?そんなの知らないよ?』なんて。

夏輝だって、急にあんなこと言われたら迷惑だと思う。



それに…前みたいな関係に戻れなかったら、困る。

私の焼いたパン、食べてくれなくなったら困る。




変に意識しちゃって、幼なじみの関係が無くなるのが恐い。

それが一番の理由だった。



あの告白は、無し。



よし。そうしよう。




< 856 / 948 >

この作品をシェア

pagetop