王子様とブーランジェール



そして、これから家に帰って。

クロワッサンの生地を仕込んで、明日の朝に焼く。

そのクロワッサンを夏輝に明日持ってってあげるんだ。

あと、今日はプロ野球のクライマックスシリーズの最終戦で、ハイターズの日本シリーズ進出がかかっていて…あ、お母さんたちはたぶん家にいないか。

一人で黙々と掃除して、生地を仕込もう。



(………)



ムクッと起き上がる。

また、底無しのため息が出た。




とりあえず、帰る。

とりあえず、ばっかり。




「…帰ろ」

「もう、起きたのか?」



そこにいるはずのない、第三者の声にビクッとさせられる。

だ、誰かいた!

な、なななな…!



恐る恐るその声のする背後を振り返る。

その声の主は、ベッドサイドの椅子に腰かけていた。

なぜか、ドヤ顔で私をニヤニヤしながら見ている。

わ、悪い顔…!



その声の主は、今、ちょっと会いたくなかった人。

いや、当人がなぜかそこにいるのだった。



神様は、意地悪ですか?

どうして、ここに彼がいるんですか?




「…よう。寝腐ってたな?」

「な、なななな夏輝…!」




何で、夏輝がここにいるの…!



何故か保健室にいる夏輝は、何故か悪い顔をしている。

してやった!という顔だ。

な、なななな何ででしょうか…。



「…あ。これ、おまえのだろ」



そう言って、夏輝は私に差し出す。



「あ…」



これ、さるぼぼちゃん。私の。

屋上か何処かで落としたと思われた…。




そして、触れてほしくなかったところに、触れてくる。




「あ、あと…」



夏輝は、ブレザーの内ポケットをごそごそとまさぐっている。

そして、そこから飛び出したモノに、私は電流が走ったみたいな衝撃に見回れるのだった。




「…これ、没収な?」



そ、それは…!



夏輝が手にしているのは、私の渾身の武器。

狭山さんから貰った大事な大事な。



私の、相手を倒す機械…!




「だ、だ、だめ!ダメダメ!…返して!」

「…だから!没収だ!このバカ!」




ひ、ひどい。

人のカバン勝手に開けて…!




「か、返してぇーっ!!」








神様、プラチナの勇気をください eNd
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