王子様とブーランジェール



恥ずかしさとイライラで、思わずカッとなって怒鳴り付けてしまう。

桃李の手を掴み上げて、懐から無理矢理引き剥がした。



ちっ…何だその反撃は!

手の動き、まるで爬虫類みたいにめちゃくちゃ獰猛だったぞ!



「あぁっ!やめて!やめて!」

「…うるせえ!…絶対渡さん!」



そのまま体ごと、ベッド上の元々いた位置まで力で押し戻す。

向こうは力に負けたのか、ごろんと回ってあっちの方を向くカタチとなってしまった。

ようやく諦めたのか「うぅぅ…」と、ベッド上で踞ってしくしくと泣いていた。



ち、ちきしょう…。

まさに、キスをしようとした時に、こんな奇襲かけられるとは…。

しかも、脇腹もぞもぞ触られて…一瞬でも変な気持ちになってしまった…。

油断も隙もあったもんじゃない。

諦め悪すぎるだろ…。



しかも、俺の話、ちゃんと聞いてたのか?

俺がいるから、守るからスタンガンはいらねえっていうこと、言ったのに…。



「…桃李」

「うぅぅ…」



しくしくと泣きながら、その顔を上げている。

視線は合わさず、気持ちバツの悪い顔をして口を尖らせていた。

多少気まずいと思っているらしい…。



「桃李」

「は、はい…」

「…俺の話、聞いてたか?」

「あ…はい…」



本当に、わかってるんだろうか。

そう思って、問いかける。



「…今度からは、俺が守ってやるから。だから、スタンガンは要らない。…いいな?」

「………」



何故か、無言。

多少ふて腐れている。

このっ!…こんなセリフ、恥ずかし過ぎて死にそうなのに!

二回目言わせた挙げ句、その態度…!



「…聞いてんのかコラ!返事せい!」

「夏輝、電気出せるの?」

「…はっ?」

「その…機械みたいに電気ビリビリって、出来るの?」

「…いや、出ない」

「でしょう?」

「………」



…人間だから、電気ビリビリ出るもんか。

せいぜい出ても、静電気ぐらいだ…!

電気、出なきゃダメなの?

でしょう?って、すげえムカつくんだけど。



俺より、スタンガンがいいのか…。



ガックリきて、どっと疲れた。



やはり…このバカを相手取って、恋愛に持ち込むのは非常に難しいのかもしれない…。



「…こら、起きろ。もう帰るぞ」

「うぅぅ…返してえぇぇ…」




この上ない、悲劇としつこさだ。




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