王子様とブーランジェール



俺に怒鳴られると、さらに目をうるうるさせてさまった。

もう泣く…あ。涙流れてしまった。



「い、い、いるよぉぉ…いるもんっ…」

「…いらん!」



えぐえぐと泣く桃李の涙を流した顔を見つめる。

いろいろな決意や思いが頭を巡る。



そっと頭に触れて、そっと撫でる。

そのまま、胸の中に収めるようにぐっと抱き寄せた。

体をしっかりと両腕で包んで、抱き締める。

力が入って、強く。




「…本当に、マジであんなもの、いらねえから」




俺の腕の中にいる桃李は「うぅぅ…」と泣き声を漏らしながら、首を横にブンブンと振っている。



「あんなものが無くたって…俺がいる」




…スタンガンよりは、相当役に立つと思うけど。

だいぶ、激アツな存在だぞ?




「…俺が、おまえを守る。もう二度とおまえをあんな目に合わせたりしない」




ずっと傍に…いさせてほしい。

もう、絶対傷付けられることのないように。

いつだって、そこにいてやる。

呼ばれたら、駆けつけてやる。



絶対に、俺が守り抜く。



「今まで、本当にごめん…ごめんな」



抱き締めている、その腕に更なる力を込める。

思いも、込めるように。



謝罪の言葉は、これだけでは足りないぐらい。

今までのこと、謝らなければいけないこと、たくさんある。

今の一言で全てを一括するのはずるいくらい、たくさん。




土下座したり、謝罪会見開いて謝り倒すのは、簡単。

…でも、更なるプラスを求めていくなら。

謝り倒しながらも、何かをしていくつもりでいる。

挽回するかのように。




腕を少し緩めると、桃李が顔を上げた。

泣き腫らした赤い目と、目が合ってしまう。



…泣いてる顔も、かわいいとか思っちゃって。

でも、切なく思ってもしまって。



そんな小さい顔の頬に、手を触れる。

黙って引き寄せて、唇を…。





「…おぉっ!…うわぁっ!」

「………」




な…何だ、今の!




唇狙って…との最中に。

脇腹に急に、もぞもぞと…!

くすぐったくて、思わず変な声をあげてしまった。



「な、何だおまえは!」

「…返してえぇぇ!」



こいつ…!

俺のブレザーの懐に手を突っ込んできやがった。

もぞもぞと、内ポケット狙って…!



「…いい加減、しつこいぞ!マジでおまえぇぇっ!!」

「だめだめやっぱ返してえぇぇ!」



< 869 / 948 >

この作品をシェア

pagetop