王子様とブーランジェール

両片想いチキンレース?









『…どれだけ立派になれば、彼女にふさわしくなれますか?』






そう、問い掛けたのは。

昨年の町内会の夏祭りのことだった。





昼下がりの時間から、神社に併設されている大きめの公園で、たくさんのテントを構え、出店が出される。

商店街の協力もあってか、ここらの地区では一番大きいお祭りだ。

出店の前は、長蛇の列で。

行き交う人、人だらけで。

知ってる同年代の連中や、近所の人ともすれ違っては頭を下げる。

小さな子供は駆け回り、老人や大人たちはテーブルに座って飲食と談笑を楽しんでいた。





俺は、昨日の夜中に岡山県から帰ってきており、昼過ぎまで爆睡していた。

でも、その時の彼女である里桜が突然部屋に上がり込み、布団の中に潜り込んできて『夏祭り行こー?浴衣着るからー。浴衣好きでしょー?』と誘われる。

浴衣は好きだけど。

疲労困憊なのに、めんどくせー。

行かねーよ。



でも…いや、待てよ。

町内会の夏祭りなら、桃李も来てるか?



そう思うと、俄然行く気になってしまった。

それに、商店街のおじさんおばさんたちにも日頃からお世話になってるし、最後の後片付けでも手伝えれば。



だらだらと単身、会場へ赴く。



人混みを歩く中、出店の方に顔を向けると…すぐに見つけてしまう。



『豚串2本と鳥串2本、400円になります!』



桃李だ…。



桃李は毎年、父母の代わりにお店の代表として、この夏祭りの出店を手伝っている。

もうだいぶやってるので、手慣れたもんだ。

学校にいる時のダメドジ挙動不審とは、打って変わって違う。

せっせと動いては接客をしたり、ビールを注いで出したり、商品をフードパックに詰めて出したり。

なんせテキパキしている。

ブーランジェールスイッチ、この夏祭りの出店でもオンになるのか。



『桃李ちゃん、ビールひとつお願い!』

『はい、ひとつですね!』



同年代の女子たちは、綺麗な浴衣を身に纏って、着飾ってキャーキャー言いながらそこら辺で遊んでいるのに。

桃李は、エプロンを着けて、大人に混じって汗だくになって働いている。

この差っていったい何なんだ。

不憫でならない。



でも…俺はどちらかと言えば、一生懸命働いている不憫なヤツの方が好きだけど。

桃李の浴衣姿を一番見たかった…。



そう思いながら、長蛇の列からはずれた向こうで、一人一人丁寧に接客している桃李を見つめる。



最近は…いろんな事件もあったし、なんせ忙しかったから。

全然桃李と会えてなかった。

話したい…。

こんなところでおまえを見ているなんて、気付かないだろうな。



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