エリート弁護士は独占欲を隠さない


――九条さんの専任秘書に決まった半年前。
春風が心地いい三月下旬のその日は、新たな第一歩を踏み出すことにワクワクしていた。

それなのに、彼の部屋に呼ばれて挨拶もそこそこに、いきなり必要な書類のリストを渡され思考が固まったのだった。

 * * *

 普通、「これからよろしく」とか「頑張って」とかひと言あるもんじゃないの?


パートナーとして交流を深めようとする行為はいっさいなく、いきなり業務を開始した九条さんは、それら書類の申請業務に丸一日かかった私をギロッとにらんだ。


「研修したんじゃないのか?」


そして冷たいひと言。


「し、しました」


でも、扱う書類の種類が多すぎて、まだどこに申請すべきものなのかを即座に判断できない。


「この量なら半日で申請できる。いや、しろ」


命令口調で吐き捨てた彼は、小さなため息をついた。

なんなのよ!

駆け出し事務員なんだから、ベテランの事務職の人たちと比べたら作業が遅いに決まってるでしょ?
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